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読書記録とか日記とか
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もう、あとがないLAST.jpg! でも明けない夜はない。

帯にはこう書かれているが、最初の短編「ラストライド」の結末からして、のっけから明けない夜に片足もとい両足つっこんでいる感じなのは出版社の遊び心であろうか。

この本は「ラストライド」「ラストジョブ」「ラストコール」「ラストホーム」「ラストドロー」「ラストシュート」「ラストバトル」の7つの短編を収録した短編集である。
「池袋ウエストゲートパーク」の作者である石田氏らしく社会の片隅に生きる人々にスポットを当てている。

全編とおして暗い、どん底の人間模様を描いており、「夜が明けた」と感じるのは「ラストドロー」と「ラストバトル」の2編のみで、他の5編は起承結のブラックブラックとなっている。転にあたる部分がない。

現代の犯罪、ヤミ金、暴力団、ホームレス、売春等々、日常を生きるうえであまり目にすることの無い、裏の世界(この言い回しは少々恥ずかしいものだが)の救いの無さを知ることができる。まあ、リアリティについては実際に経験することがないのであまり言及することはできないけれど。

特に記憶に残った短編を紹介しよう。

「ラストライド」
この編が最も暗く、救いが無い。最終的に自分の死か妻子を売るかの選択に迫られた主人公の「ラストチョイス」がぼかされているのが、さらに話を重くしていると思う。
これほどまでに絶望する程とは言わないが、人生に1度は自分、ひいては周りの人々に重大な影響を与えかねない選択を迫られることがあるだろう。そのとき、人間は何を感じ、何を考えるのか。

「ラストジョブ」
身体障害者の性と満たされない既婚女性の見えない行く末を描いている。
この編に関しては、ブラックとはいえないかもしれない。作中に明確に不幸を被った人間がいないからだ。
しかし、のめりこんでいく女性の危うさと、家庭の破滅と隣り合わせの状態で締めくくられたところに、大きな不安さと皮肉を感じる。

「ラストバトル」
この編が最後の短編でなければ、「LAST」を読み終えた後に、胸に残るのは不安と焦燥感だけだったかもしれない。
借金苦の男性が命を懸けた賭けを無理やり戦わされてしまう。まさに命懸けである。
死と隣り合わせの状況に放り込まれた主人公の心情をいきいきと描いていると感じた。
最終的に、主人公は賭けから救われるが、作中に描かれなかった主人公の社会への復帰、これからの人生、それらこそが、「ラストバトル」、最後の戦いではないだろうか。

PR
bb4dbafb.jpeg高校生以上の人なら1度は教科書で中島敦の山月記を目にしたことがあるだろう。
難解な漢字と漢詩で武装して、いかにも人を寄せ付けない雰囲気の作品だ。
しかし読んでみると不思議とすらすら読めるものである。

エンターテインメントなのだろうね。やはり。
エリートが高潔な理想に生きようとして挫折する。青年漫画かなにかにありそうな話でもある。

今回紹介する作品、「虎と月」はその山月記を題材としたジュブナイル小説である。
作者の柳広司は今もっとも勢いのあるエンターテインメント作家だと思う。
あらゆる題材を斜め上から飲み込んでいく大きなうねりのような、そんな作風だ。
これまでザビエルを、漱石を、シュリーマンを、ソクラテスらをミステリに飲み込んだ柳広司氏という巨大な渦が次に飲み込んだのが悲劇の怪異談「山月記」であった。
まさに文系オタク少年少女の夢を詰め込んだ作品群を築き上げた柳氏のアレンジは悲劇をミステリへと転化し、人虎・李徴とその友人袁参の物語を少年の冒険譚へと作り変えた。

これまで読んだ柳氏の作品と比べ、この「虎と月」は李少年の一人称で書かれているために非常に読みやすく、李徴の残した謎も非常にさらりとした冷麦がごときのどごしとなっている。
柳氏入門本としてはあまりに普段と文体の毛色が違う点で少し不適かもしれない。
しかし、柳氏の作風をとらえるには適した作品と言えると思う。

これを読んでシンパシーを感じたならば、現在話題となっている柳氏のスパイ短編集「ジョーカーゲーム」または角川文庫のザビエルと時をかけるミステリ「ザビエルの首」を是非続いて読んでいただきたい。


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